日本海沿いの町に暮らす少年、 大地は、 幼少期に暴君のようだった父の影響から言葉を発しない。 今は母の亜樹と暮らしているが、 夜の仕事で生計を立てざるを得ない亜樹はほとんど家に帰らず、 生活は苦しい。 やがて亜樹と共に叔母の家に身を寄せるが、 どこにも居場所はなく、 ひとりで過ごしては内気になっていった。 大地は父の行方を求めて生家を訪ねることを決意。 これを境に、 彼の運命は大きく揺らいでいく———。 心のよるべなき貧困、 誰にも見つからぬように生きる孤独の中のささやかな救い、 母への複雑な感情。 流されるままに生きているようで、 歩みを止めない大地。 そんな彼がかすかな光を手繰り寄せ、 息をのむような大きな愛を知るまでの20年間が、 少年の姿を追い続け、 リアリズムに根ざした視点で綴られていく。
SCROLL
主演 北村匠海×内山拓也監督
かすかなぬくもりが
白く滲む冬の新潟から動き出す
ひとりの少年が 「息をのむような愛」 を
知るまでの20年間
映画賞新人賞を席巻した 『佐々木、 イン、 マイマイン』 、 続く 『若き見知らぬ者たち』 で一貫して現実に抗い、 何かを掴もうとする若者の青春を見つめ、 映画界に鮮烈な印象を残してきた内山拓也監督が、 故郷の冬の新潟を舞台に、 居場所とアイデンティティを模索する少年の物語を自伝的作品として世に放つ渾身の一作。
青年期の主人公・大地を演じるのは、 北村匠海。 母と自分のもとを離れた父への静かな怒り、 女手一つで自分を育てた母に対し、 愛と憎しみ、 相反する感情に揺れる心の内を見事に体現。 母・亜樹役には、 宮沢りえ。 無邪気さゆえに、 大地に孤独を抱かせるような生活を送るものの、 細部に息子への確かな慈愛が滲む母親を全身全霊で表現する。 そして父・大原役には、 永瀬正敏。 暴君のような姿から一転、 悲哀に満ちた余生を送る男を円熟味たっぷりに魅せる。 また、 少年期の大地として、 榎本司、 加藤庵次、 穐本陽月、 それぞれが無垢で力強いまなざしで、 心の奥底に渦巻く寂しさや愛情、 そして生きる力を表現し、 物語全体を牽引していく。
北村匠海
青年期の大地
宮沢りえ
大地の母・亜樹
榎本 司
少年期の大地
加藤庵次
少年期の大地
穐本陽月
幼年期の大地
赤間麻里子
大地の叔母・智子
奥野瑛太
亜樹の恋人・嘉人
タラセンコ ロマン
ロシア人労働者・イワン
赤堀雅秋
建設会社の社長
永瀬正敏
大地の父・大原
監督・原案・脚本:
内山拓也
1992年生まれ、 新潟県出身。 文化服装学院でファッションを学び、 スタイリストを経て映像の道へ進む。 初監督作 『ヴァニタス』 でPFFアワード2016観客賞を受賞、 香港国際映画祭に出品、 批評家連盟賞にノミネートされるなど、 海外でも評価を獲得。 『佐々木、イン、マイマイン』 (20) では、 新藤兼人賞、 日本映画批評家大賞、 ヨコハマ映画祭など、 国内の主要な新人監督賞を総なめにした。 同作品は東京国際映画祭でプレミア上映された。 フランス、 韓国、 香港、 日本による4つの国と地域の共同製作 『若き見知らぬ者たち』 (24) で商業映画デビュー。 最新作 『しびれ』 で第26回東京フィルメックスにて審査員特別賞を受賞。 第76回ベルリン国際映画祭 「パノラマ」 部⾨に正式出品。 その他にもKing GnuやSixTONESなど著名アーティストのMV、 短編、 広告など様々な映像作品を手掛け、 若年層を中心に幅広い支持を集めている。
- 撮影:光岡兵庫
- スタイリスト:入山浩章
- 照明:阿部良平
- ヘアメイク:田中マリ子
- 音響:白取 貢
- 編集:平井健一
- 美術:福島奈央花
- サウンドエフェクト:北田雅也
- 装飾:野村哲也
- 助監督:石井純
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板前として修行後、 フォトグラファーへ転身。 その後、 King GnuなどのMV、 企業のWEBムービーやテレビCMを多数手掛ける。 主な作品として、 『ブルーピリオド』 『若き見知らぬ者たち』 (24) など。
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主な作品として、 『黄龍の村』 『ベイビーわるきゅーれ』 (21)、 『辰巳』 (24)、 『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』 (23)、 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』 (24)、 『ネムルバカ』 (25) など。
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主な作品として、 『スパゲティコード・ラブ』 (21)、 『世界の終わりから』 『キリエのうた』 (23)、 『若き見知らぬ者たち』 (24)、 『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM THE ORIGIN』 など。
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主な作品として、 『いのちの停車場』 (21)、 『ファミリア』 『ちひろさん』 『銀河鉄道の父』 (23)、 『52ヘルツのクジラたち』 (24)、 『35年目のラブレター』 『見える子ちゃん』 (25) など。
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主な作品として、 『そして、 バトンは渡された』 (21)、 『流浪の月』 (22)、 『ロストケア』 『大名倒産』 (23)、 『罪と悪』 『四月になれば彼女は』 (24)、 『国宝』 『ストロベリームーン 余命半年の恋』 (25) など。
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主な作品として、 『溺れるナイフ』 (16)、 『サヨナラまでの30分』 (20)、 『サマーフィルムにのって』 (21)、 『愛に乱暴』 『若き見知らぬ者たち』 (24)、 『悪い夏』 『秒速5センチメートル』 (25) など。
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主な作品として、 『佐々木、イン、マイマイン』 (20)、 『逃げきれた夢』 (23)、 『若き見知らぬ者たち』 (24)、 『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ MOVIE』 『楓』 (25) など。
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主な作品として、 『国宝』 『8番出口』 『次元を超える』 『爆弾』 (25)、 「ドラえもん」 シリーズなど。 フォーリーアーティストとして、 バイオハザード、 モンハンシリーズに参加。
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主な作品として、 『犬鳴村』 『アイヌモシリ』 (20)、 『熱のあとに』 『青春18×2 君へと続く道』 『かくしごと』 『あたしの!』 (24)、 『映画 おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』 など。
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主な作品として、 『生きちゃった』 (20)、 『花束みたいな恋をした』 (21)、 『サボテンと海底』 (23)、 『若き見知らぬ者たち』 『光はどこにある』 (24)、 『FUJIKO』 (26) など。
内山拓也監督
オフィシャルインタビュー
「“しびれ”を抱えた人たちに、
それでもあなたは孤独ではないよ、
と伝えたい」
取材・文/森直人
内山拓也監督
オフィシャルインタビュー
「“しびれ”を抱えた人たちに、
それでもあなたは孤独ではないよ、
と伝えたい」
取材・文/森直人
――内山監督の自伝的な内容である 『しびれ』 は、 まだ自主映画を撮り始める前に、 初めて書いた脚本がベースになっているそうですね。
はい。 書き始めたのが19歳や20歳の頃で、 タイトルも最初から 『しびれ』 でした。 僕は完全に独学なので、 インターネットや書籍で脚本の書き方のイロハを調べるところから始めたんですね。 これをやらねば自分は生きていけない、 というような切迫感と初期衝動に突き動かされて脚本に取り掛かったのを覚えています。
当時の自分は文化服装学院在学中から始めたスタイリストとしての活動を通して、 ファッションの分野から映画へと移行し始めた頃でした。 22歳で自主映画 『ヴァニタス』 (16) を初めて撮って以来、 監督作を撮る機会にも恵まれてきましたが、 ずっと 『しびれ』 のことが頭から離れたことはなかったと思います。
――主人公・大地の少年期から25歳になるまでの物語として、 監督自身の半生をもとに映画化されたわけですが、 これまでの内山監督の作品に比べると圧倒的にシンプルな構造です。
余計なものを引いていくことが今回は重要でした。 『佐々木、 イン、 マイマイン』 や 『若き見知らぬ者たち』 では時系列を入れ替えたりなど、 重層的な作品設計を試みましたが、 『しびれ』 は回想も一切なく、 ひたすら時系列に沿った語りに徹しています。 実は原型の脚本は東京を舞台にしたパートもあって、 新潟の物語と入れ子構造になっていました。 ただ改めて 『しびれ』 に向き合った時、 この手法が自分の手癖になっている危うさを感じたんです。 『しびれ』 の主人公・大地は、 目の前のものに立ち向かいながら、 時間を止められない。 そこで映画の時制が過去に戻ると、 湿っぽい情緒に流れてしまう。 前に進みたいという希望を、 硬質なトーンで描くためには、 現在進行形で直線的に進んでいくタイムラインしかないと判断しました。 端的に言うと、 この物語に最もふさわしいと思える語りのスタイルを選んだということです。
――主演・大地役の北村匠海さん、 母・亜樹役の宮沢りえさん、 父・大原役の永瀬正敏さんの起用の経緯と理由を教えてください。 皆さん、 初めて組む方々ばかりですね。
北村匠海くんとの出会いは、 『しびれ』 を具体的な形にできると思った決定的な起点のひとつです。 数年前にいわゆるプライベートな場で知り合ったのですが、 彼の目に非常に惹きつけられて。 その目であれば、 大地という人物を体現できるのではないかと思いました。 逆に言うと匠海くんがいなければ、 まだ 『しびれ』 を映画にしようとは考えなかったはずです。
宮沢りえさんも、 この映画を作るに当たっての絶対的な存在でした。 母・亜樹役には 『こわれゆく女』 (74/監督:ジョン・カサヴェテス) のジーナ・ローランズくらいスペシャルな俳優さんがどうしても必要だったのですが、 それを担ってもらえる人として、 僕には宮沢さんしか考えられなかった。 亜樹という人物像の肝になったのは“無邪気さ”です。 たまたま運命の掛け違いの中で、 なかなか順風満帆とはいかない中で、 きっと環境が違えば、 愉しく天真爛漫に生きていただろうなと想像させるチャーミングな人。 たまたま宮沢さんが 『佐々木、 イン、 マイマイン』 を気に入ってくれていたようで、 快く引き受けて下さいました。
永瀬正敏さんも僕が大ファンなので、 ご快諾いただけた時は本当に嬉しかった。 スタイリッシュで本当に格好良い方なんですが、 同時に最近は円熟味が増して、 二本足でどっしり立っている感じが今回の役にぴったりだと思えました。 大原は“父性の何たるか”をすべて背負ってもらうような役柄なので。
僕が言うのも畏れ多いですが、 お三方とも見ている世界や持っている感覚が自分に近いと思えたんですね。 この時代を行き渡りながら、 “共通言語を持っている”ことが、 一緒に物作りをするうえでとても大切なことだと思います。
――大地の少年時代を演じた榎本司さん、 加藤庵次さん、 穐本陽月さんも素晴らしかったです。
今回のキャスティングは全体に 「目」 が決め手なんです。 僕の肌感覚に過ぎないんですが、 大地の目を持っているかどうか。 異なる世代でも、 瞳から同じものを感じる4人を探し出し、 自分が演出すれば、 きっと同一人物に見えると信じていました。
そのうえで大切にしたのは、 彼ら自身の主体性を引き出すことです。 「こうして」 と指示を出すのではなく、 「どう思う?」 と訊いて一緒に考えていく。 それは大人のキャストに対しても同様だったのですが、 子どもだからといって演出の仕方を変えるのではなく、 同じ対等な目線でコミュニケートするのが基本姿勢です。 自分の経験を思い返しても、 大人が押しつけた勝手な枠に嵌めることこそ、 子どもがいちばん嫌うことだと思うので。
実のところ僕自身、 まだ演出とは何かってことが捉え切れてはいないんですけど、 特に榎本司くんと加藤庵次くんは出番が多く大地をブリッジしていく存在なので、 脚本以外のエチュードや想像力を膨らませるようなワークショップをやったり、 宿題みたいなものはたくさん用意しました。 例えば、 お風呂を洗うとか、 お米を研ぐとか、 それぞれのライフスタイルや性格に合わせて。 その役について考えるというよりも、 自分の手足を使って生活というものを見つめる作業をお願いしました。
――冬の新潟でのロケーション撮影が圧巻でした。 ファーストショットの荒涼とした雪景色の画からぐっと引き込まれます。
新潟で生まれ育った僕からすると、 この土地の冬の風景が持っている世界観は鉛色だというイメージがあって。 空も海も青なんだけど、 どのカラーパレットを開いたらその青になるんだろう、 というような複雑な色をしている。 なおかつカラーグレーディングなどで映像にお化粧はさせたくない。
今回は16mmフィルムで撮影しているんですが、 それは別にフィルム的な粒子の質感を求めたわけじゃないんです。 実際に新潟の海や山に対峙するとパワーが圧倒的で、 デジタルだと負けてしまう気がしました。 冬の新潟に立ち向かうためには、 フィルムという物質が必要だったんです。 この世界を大地がひとりで背負うために、 チームみんなで一蓮托生してフィルムに願いを託すというような。 生半可な気持ちで撮影に臨まないための、 儀式的な側面もあったかもしれません。
そうして、 すっぴんの新潟の風景を見せながら、 炎と水と土地 (大地) と風を重要なピースとして画面構成しています。 根源的なものをフィルムに焼きつけたかった。
――撮影中の撮影スタッフへの世界観の共有、 仕上げ途中時の海外とのコミュニケーション用にダイジェスト映像を作った際、 その映像にエディット・ピアフの 「愛の讃歌」 をあてたとうかがいました。 その背景にはどんな思いがあったのでしょうか。
この映画は音楽で溢れていると思っています。 大地 (主人公そのものの音でもあり地面の音でもある)、 風、 海、 雨、 炎、 そして雪にすら音がある。 映像をダイレクトに届け、 没入というよりは20年を一緒に体感するような、 追体験をしていただけるよう目指しました。 そういった想いの上で、 この映画を象徴するのに、 最も相応しい楽曲の一つだと思っていたからです。 つまり 『しびれ』 は“愛の讃歌”であるからです。 楽曲自体は恋人に宛てたものですが、 この普遍性は時代や国境を超えて、 家族、 親子、 友人、 国など様々な解釈がなされ、 愛についての象徴として広く届いており、 自分にとっては 「母」 への愛として浸透しています。
僕は友人のために映画を作っています。 それは、 まだ出会ったことのない映画を観てくれる世界中の友人のために。 母も当然、 今はその友人のひとりであり、 そして僕自身も、 その友人のひとりです。 映画館の暗闇を出たら、 映画を通じて友人が作れる。 そう信じています。
――最後に 『しびれ』 というタイトルについて。 最初の原型となった脚本から決まっていたそうですが、 そこに込めた想いを教えてください。 英題の 『NUMB (ナム) 』 には麻痺とか (寒さで) かじかんだという意味もありますね。
抽象的でありながらワンワードで表現したい、 というのがまず思ったことでした。 しかも作品の主題や感情を概念的に説明するものではなく、 自分の身体感覚をタイトルとして真ん中に置きたかった。 新潟で過ごした時間に感じていたものは、 単純に怒りでも、 悲しみでもなかった。 映画を観てくださる皆さんに伝えられる共通認識、 それが僕の中ではピンポイントで 『しびれ』 だったんです。
『しびれ』 において、 あるいくつかのシーンをのぞいて、 大地はハッキリとスクリーンの右=未来を向いている。 きっと今、 自分の身体では支えきれないほどの現在への不安に苛まれている子供たち、 若者たち、 大人たちは世界にたくさんいると思います。 そんな“しびれ”を抱えた人たちに、 それでもあなたは孤独ではないよ、 と伝えたい。 未来を向いて欲しい。 それをメッセージとして伝えるというよりは、 純粋に読み取って楽しむ映画作品であってくれることを願っています。
観る者の心に長く余韻を残す
数多くの応募作品の中で、 本作はその静かで力強い語り口によって強い印象を残しました。 内山拓也監督による繊細な演出のもと、 北村匠海は困難に耐えながら生きる人物を驚くほど豊かなニュアンスで演じ、 その存在が作品の感情的な核を形成しています。
極めて感受性の高い映像表現と抑制の効いた演出が、 演技と風景のあいだに静かな対話を生み出し、 『しびれ』 は意図的でありながらも深く心に響く自然主義的な世界を描き出します。 随所に見られる思慮深い演出上の選択が作品に確かなリアリティと説得力を与え、 観る者の心に長く余韻を残す作品となっています。
マイケル・シュトゥッツ
(ベルリン国際映画祭ディレクター パノラマ部門責任者)
静寂と変化、
柔らかさと硬さが
内包され、
バランス感覚に
満ちた映画である。
マティアス・
ピニェイロ
(第26回TOKYO FILMeX
審査員特別賞贈呈時コメント)
内山が何よりも
「映画」 を信じて
いるからこそ、
この領域に
辿り着けた
神谷直希
(TOKYO FILMeX
プログラム・ディレクター)
いささかも妥協のない作品
『しびれ』 は、 暴力と依存に刻まれた家族を描いた、 いささかも妥協のない作品だ。 家族という名の監獄のなかで、 声を失った主人公を見つめ続ける眼差しは、 冒頭から息を呑むような緊張感を生み、 私を強く引き込んだ。 荒々しいフィルムの映像のなかから、 温もり、 愛、 そして自立を求める心からの叫びが、 次第に立ち上がってくる。 それは深く胸をえぐるほど痛切で、 氷のように冷たい。 しかし同時に、 生きたいと願い、 自由を手にしようとするひとりの人間を描いた、 繊細で優しい映画である。
ラモン・チュルヒャー
(映画監督)