
『佐々木、イン、マイマイン』『若き見知らぬ者たち』の内山拓也監督が、北村匠海を主演に迎えた最新作『しびれ』。この度、2026年6月26日から開催の第28回台北映画祭(台北電影節)への出品が決定し、さらに、毎年、世界で最も注目すべき映像作家に焦点を当て、その監督の作品群が上映される“Filmmakers in Focus”に内山拓也監督が選定されました。本特集上映では、内山監督の長編作品『ヴァニタス』『佐々木、イン、マイマイン』『若き見知らぬ者たち』『しびれ』の4本が上映。近年、“Filmmakers in Focus”にて特集された日本人は2016年に濱口竜介監督、2020年に大林宣彦監督です。
6月28日、誠品電影院(Eslite Art House)にて内山監督最新作『しびれ』が上映。内山監督の作品が台湾のスクリーンで上映されるのは今回が初めてとあって、上映は満席の大盛況。上映後にはQ&Aも行われ、監督自ら、本作の創作過程について明かしました。
『しびれ』は、冬の新潟を舞台に、幼少期の記憶から言葉を発することができなくなった少年・大地が歩む20年の軌跡を描いた作品。内山監督はもともとファッションを学んでいましたが、人生の行き詰まりを経験し、その時の感情を記録するために脚本を書き始めたことが映画制作のきっかけになったと話します。半自伝的な要素を持つことについては「デビュー作ではないものの、『しびれ』は自分の最も率直な感情から生まれた作品と言えます。そのため故郷である新潟での撮影を選びました」。その一方で、監督は、自身の人生をそのまま映画化したわけではないとも強調。「それぞれの場面に自分の感情や実際に目にした風景を織り込み、新潟という土地を一度解体し、再構築していきました。本作にとっては、大地だけではなく、新潟という土地ももうひとりの主人公。雄大な風景が大地を飲み込むように存在し、時間とともに絶えず表情を変えていくさまを映したいと思いました」と、作品づくりを通して新潟に対して芽生えた感情を振り返ります。
大地の20年にわたる人生を描くため、北村匠海、榎本司、加藤庵次、穐本陽月という異なる年代の4人の俳優が一人の人物を演じている本作。そのキャスティングについて、監督は「外見が似ていることは重視せず、むしろ眼差しや内面からにじみ出る感情を基準に選びました」と述懐。その結果、スクリーンでは4人の俳優に不思議な共通性が生まれたそう。
青年期の大地を演じた北村については、長年俳優としてだけでなく、アーティスト活動など他分野でも経験を積んできたことが、同世代の俳優とは異なる深い眼差しにつながっており、自分が思い描く主人公像に最も近かったとコメント。一方、大地の母親を演じた宮沢りえについては、「亜樹という役を宮沢りえさんに託したいと思っていたところ、宮沢さんが『佐々木、イン、マイマイン』を好きでいてくれて、監督の作品だったら出演したいと思っていてくれたことがきっかけで、本作への出演が実現しました」。圧倒的な存在感を放ち、時には間違った選択を繰り返しながらも懸命に生きる女性だが、監督は「亜樹はとても無邪気で、魅力的なところがある」と表現した上で、「日本を代表する名女優である宮沢さん自身にも、亜樹と同じような純粋さがあるんです」と明かしました。
今回、初めて台湾を訪れた内山監督は、映画を独学で学ぶ過程で、エドワード・ヤン監督ほかの映画を通して、台湾という場所を知ったことが台湾への関心の始まりだったと吐露。この日は、同監督の『牯嶺街少年殺人事件』のロケ地の一つである台北植物園も訪れたとか。そして「いつか台湾で映画を撮れる機会があれば嬉しい。今回の旅は観光であると同時に、ロケハンでもあります」とこれからの作品づくりへの期待が高まるコメントも飛び出します。
最後に「まだ監督した作品も多くないのに、本当に今、自分の回顧特集をやっていいのだろうか、という気持ちで台湾に来ました」と照れ笑いを浮かべながら語った監督。なお、映画祭期間中は『ヴァニタス』『佐々木、イン、マイマイン』『若き見知らぬ者たち』も上映され、いずれの上映、監督のQ&Aも大盛況のうちに終了。Q&A後には、監督のサインを求める長蛇の列ができ、中には日本公開時に購入したという過去作品の劇場パンフレットを持参する人たちも見受けられ、監督への注目度の高さがうかがえる特集上映となりました。
初めて内山拓也監督の『しびれ』を観たとき、私たちは一瞬にして、彼の緻密な画面設計と、その映像表現に宿る言葉にできないほど繊細なテクスチャーに惹きつけられました。この出会いをきっかけに、私たちは内山拓也という映画作家のこれまでの軌跡を、より深く辿ることにしました。
世界各国の新たな才能を紹介してきた私たちは、内山監督の4本の長編作品に、確固たる創作意志とビジョン、そして極めて私的な経験や感覚への深い眼差しを見出しました。
それらの作品は、内山監督の代えがたい作家性を確立すると同時に、現代を生きる若者たちの孤独、不安、葛藤を、豊かな映画的表現によって浮かび上がらせています。大規模かつ商業性の強い映像作品が産業の中心となる現代において、内山監督は芸術的な洗練と、観客との感情の接続を高い次元で両立させている、稀有な才能です。私たちは、内山拓也という映画作家が、今後、日本映画の現在地を語るうえで欠かせない存在になっていくと確信しています。
――台北映画祭 ※特定の個人からではなく、映画祭全体からのコメントです。